2021年02月21日
「ノスタルジーは逃避だ!」憧れのキャフェの歴史と映画「ミッドナイト・イン・パリ」の夜明け
「ノスタルジーは逃避だ!」憧れのキャフェの歴史と映画「ミッドナイト・イン・パリ」の夜明け

「あの頃はよかったなぁ」とか、「90年代のカルチャーが好きだから、当時に生まれたかった」みたいな、ノスタルジーや憧れって、だれしもが一度はいただいたことがあるのではないでしょうか。オレンジパークを運営する上で、しばしば例え話であがる憧れの対象が「パリのキャフェ」です。今回は「そもそもキャフェ」とはなんぞやというところまで掘り下げながら、パリのキャフェの雰囲気が伝わる映画をご紹介。そして、「憧れているばかりでは、いかんぜよ」という、映画のメッセージを考えてみたいと思います。

「カフェ」の由来と歴史のトリビア
出典: Le Procope / ブラッセリー / Paris https://www.procope.com/ja/

「キャフェ」は、その響きのとおり「カフェ」のことで。フランス語でいうと「キャフェ」ぽくなります。コーヒーを嗜んだり、お茶したりするところ、というイメージがあると思いますが、昔は様子がちがっていたのだそう。
そもそものそもそも、「café:キャフェ(カフェ)」は「café:コーヒー」からきていて。諸説あるそうですが、アフリカのエチオピアが原産といわれています。エチオピア南西部のカファ地方(Kaffa)で、山羊が謎の実を食べてたなと思ったら、夜中まで飛び回っていたため覚醒作用があることに気づいた羊飼いが飲み始めたという説。そして、アラビア語で、古くは「ワイン」の意味があった「カフワ(Qahwah)」からきている説があったりするそうです。「ワインとコーヒーって、全然違うじゃないか」と思いますが、イスラーム教徒にとってお酒がタブーとされていたため、覚醒作用・興奮作用のあるカフェインを含んだコーヒーを、お酒の代わりに飲んでいたことに由来するのだとか。
出典:1900年頃のカフェ・ド・フロール https://www.pariszigzag.fr/secret/histoire-insolite-paris/petite-histoire-du-cafe-de-flore

アフリカからアラビアに伝えられ、トルコ(オスマン帝国)で売られイタリアに渡り、フランスへ、ヨーロッパ各国、世界へ…と、広がってきたという歴史があり。エチオピアの「カファ地方(Kaffa)」かアラビア語の「カフワ(Qahwah)」から、トルコ語でコーヒーを意味する「Kahve(カフヴェ)」、イタリア語の「caffè(カッフェ)」、フランス語の「café(キャフェ/カフェ)」、そして馴染みある英語の「coffee(コーヒー)」になってきたというわけです。これは、トリビアです。

コーヒーが飲める場所は、ヨーロッパに伝わる過程で各地にあったといいます。その中で、なぜ「パリのキャフェ」にぼくたちが注目したいのか。それは、独自の発展を遂げ、文化の起点となっていたところにあります。

出典: Le Procope / ブラッセリー / Paris https://www.procope.com/ja/

現存するパリ最古のキャフェとして知られるル・プロコープ」は、1686年の創業当時は貴族や芸術家たちの社交場として賑わっていのだそう。今でこそ、街中ならどの角を曲がってもカフェがあってコーヒーが飲めますが、その頃はそうでもなく流行の最先端。

教科書にのっていたような偉人たちがこぞって通い、政治や文学、芸術についての議論をかわしたり、作品を生み出したりしていたり。キャフェでしか、集まってなかなか語れないことがあったのです。さらに18世紀末になると、革命家たちが集まり、フランス革命の発端となっていく…といった風に、集まり、出会うことで、新しいものを生み出していく、なにかを変えていく起点となっていました。
(ちなみに、「ル・プロコープ」には哲学者のルソーやあのナポレオンも足を運んでいたそう。ナポレオンの帽子が飾られていて、代金の代わりに帽子を置いていったとか)

憧れのパリを描く「ミッドナイト・イン・パリ」
©2011 Mediaproduccion, S.L.U., Versatil Cinema, S.L. and Gravier Productions, Inc.

時代ごとに、文化の起点となってきたパリのキャフェ。中でも、「1920年代のパリこそ〝黄金時代〟だ!」と語る男が、主人公の映画があります。「アニー・ホール」などで知られる、ウディ・アレン監督の映画「ミッドナイト・イン・パリ」です。この映画は、第84回アカデミー賞でウディ・アレンが自身3度目となる脚本賞を受賞した作品。

舞台は、ハリウッドで売れっ子の脚本家の主人公・ギル(オーウェン・ウィルソン)が、婚約者イネズ(レイチェル・マクアダムス)と彼女の両親とともに訪れていたパリ。ギルは小説を書くために、憧れのパリへ引越しを決意するが、イネズはとりあってくれず。真夜中をひとりで散歩していると、真夜中の鐘がゴーンとなって、気がついたら彼が愛してやまない1920年代のパリに迷い込み・・・という物語です。
©2011 Mediaproduccion, S.L.U., Versatil Cinema, S.L. and Gravier Productions, Inc.

ちなみに、この映画に「キャフェ」は出てきません!が、ぼくたちの憧れる、出会いがあり、集まることでなにかを生み出し、変えていく雰囲気が詰まっているのです。例えば、迷い込んだ黄金時代のパリのパーティで、「グレート・ギャツビー」で知られるフィッツジェラルドとその妻で小説家のゼルダと出会います。
©2011 Mediaproduccion, S.L.U., Versatil Cinema, S.L. and Gravier Productions, Inc.

二人と飲みに入ったバーでは、小説家のヘミングウェイがいて。ギルは自分の小説を評価してほしいと頼む。ヘミングウェイは「自分は読みたくない」といいつつ、代わりに画家たちが集うサロンを開いていたガートルード・スタインを紹介する。そのサロンには、パブロ・ピカソがいて・・・。
©2011 Mediaproduccion, S.L.U., Versatil Cinema, S.L. and Gravier Productions, Inc.

別のバーでは、サルバドール・ダリ(エイドリアン・ブロディ)に、ルイス・ブニュエル、マン・レイらシュルレアリストがいたり。
©2011 Mediaproduccion, S.L.U., Versatil Cinema, S.L. and Gravier Productions, Inc.

と、どこにいっても誰かがいて。互いに紹介しあって、議論をかわして、私はこんなことをしていると話す。まだ、小説家ではないギルも、こう思うと語ったり。好きなこと、得意なことをもちよって、ああだこうだいい合いながら親睦を深めて行く・・・。という、場所こそパリの真骨頂。彼らも当時は、キャッフェでもくもくと、執筆したりアイディアをはぐくみながら、だれかとシェアしていたのだそう。

今を生きなきゃいいものはつくれない
©2011 Mediaproduccion, S.L.U., Versatil Cinema, S.L. and Gravier Productions, Inc.

さて。この映画において、過去に憧れを持つギルは1920年代のパリではなく現代で妻やその知人から、「ノスタルジーは拒絶だよ」と言われます。さらりと流れるシーンなのですが、とても重要なシーン。で、この記事でとても伝えたかったことです(キャフェの豆知識よりも)。

ギルは、1920年代のパリこそ、黄金時代だと目を輝かせているのですが。彼が、その時代に出会ったアドリアナ(マリオン・コティヤール)はさらに昔の19世紀こそパリの黄金時代だと語るのです。
「あの頃はよかったなぁ」とか「当時に生まれたかった」「あの頃のように、私たちも!」みたいな、ノスタルジーや憧れって、だれしもが一度はいただいたことがあるはず。けれども、当時の人たちは、さらに昔に憧れを抱き。そのさらに昔の人たちは、自分たちよりも過去の華やかな時代に憧れる。それというのは、自分が生きている現代に対しての拒絶、あるいは現代からの逃避でしかないのです。

ぼくたちは、パリのキャッフェに憧れています。90年代のカルチャーが好きだし、1970年大阪万博のレトロ・フューチャーな世界観も好き。アメリカ村が生まれた頃の熱狂にも憧れている…。
けれども、「当時は楽しかったんだろうな」とか「羨ましいな」と思いながら、真似をしているだけではダメで。好きで、憧れていながらも、ノスタルジーに逃避せず、今としっかり向き合って、「今こそ黄金時代だ!」という気概で生きなければいけないのだと思います。そうでなければ、いいものはつくれない。そんなことを、この映画から学びました。

オレンジパークはかつてのパリのキャッフェに憧れています。アメリカ村ができたころのような、集まれる場所を目指しています。だけど、ぼくたちの時代だからこそ、ぼくたちにしかできないことで、ぼくたちみんなで居心地のいい場所をつくっていかなければいけないなと。

パークはどういう場所であるべきか。
今を生きるぼくたちと、みなさんと、いっしょによりよい場所をつくっていきたいなと思います。

まだ観たことないという方は、お休みの日や夜更かしのお供に「ミッドナイト・イン・パリ」ぜひ。
ちなみに、コーヒーが「珈琲」の漢字になった経緯もおもしろいので、ぜひ調べてみてください。

【DATA】
ミッドナイト・イン・パリ
原題:Midnight in Paris
監督・脚本:ウッディ・アレン
出演:オーウェン・ウィルソン、レイチェル・マクアダムス、マイケル・シーン、カルラ・ブルーニ、キャシー・ベイツ、マリオン・コティヤールエイドリアン・ブロディ
2011年スペイン・アメリカ/英語/94分
©2011 Mediaproduccion, S.L.U., Versatil Cinema, S.L. and Gravier Productions, Inc.

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